労働条件の変更合意していない

労働契約の内容である労働条件を、労働者にとって不利益になる内容に変更するとき、原則として労働者の合意が必要です。労働者の合意がなく、会社が一方的に、労働者に不利益となる労働条件(賃金カット、諸手当の廃止・減額、賞与・退職金の引き下げ、労働時間の延長、休憩時間の短縮など)に変更しても、労働契約法(労契法)10条などの例外がない限り、そのような労働条件の変更は不適法・無効です。

 

労契法8条は、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」としており、また、同法9条本文は、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」と定めています。一部の例外はあるものの(同法10条、労組法16条等参照。近年は「変更解約告知」という方法も注目されつつある)、労働契約は労働者と使用者との合意によって成立する以上(労契法6条)、その変更も原則的には労使間の合意が必要となります。

上記例外に該当する場合を除き、合意のない労働条件の変更は不適法・無効であり、経営状況の悪化等により、労働条件変更を必要とする合理的な理由がある場合でも、これは変わりありません。

 

ここにいう「合意」は、書面によりなされる必要はなく、口頭でも行えますが、労使間の紛争防止という観点から、合意内容を書面で残す方がよいでしょう(労契法4条参照)。

 

また、労働者は基本的に使用者に対して交渉力や情報量という点で弱い立場に置かれやすいことを考慮して、合意があったかどうかの認定は慎重かつ厳格に行われます。賃金等の労働条件を使用者が引き下げたことに関して、労働者が特段の異議を述べなかったとしても、それにより直ちに黙示の合意が認められるわけではありません(東武スポーツ(宮の森カントリー俱楽部)事件・東京高判平成20年3月25日労判59号69頁参照)。変更に同意する旨の書面に署名・押印があったとしても、合意があると直ちに認められるわけではありません(山梨県民信用組合事件・最判平成28年2月19日民集70巻2号123頁参照)。裁判例では、「従業員に対し適切かつ十分な説明」をしたものでなければ、「真の同意とはいえ」ず、その程度についても、従業員において「不利益な変更を受け入れざるを終えない客観的かつ合理的な事情があり、従業員から異議が出ないことが従業員において不利益な変更に真に同意していることを示している」ような場合でなければならないとしています(協愛事件・大阪高判平成22年3月18日労判1015号83頁)。

 

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弁護士大塚晋平

弁護士(静岡県弁護士会所属)

大塚 晋平(おおつか しんぺい)

  • 経歴
    • 昭和61年7月19日生
    • 静岡県立清水南高校卒業
    • 九州大学法学部卒業
    • 静岡大学法科大学院修了
  • 所属

    静岡県弁護士会所属

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